以前は蒸し物用には重曹やイスパタ、焼き物用にはベーキングパウダーといった風に膨張剤それ自体に利用区分が明確になっていたが、最近ではこのような区分も曖昧になっており、ベーキングパウダー<蒸し物用>と云った不思議な表示も見受けられる。
膨張剤の中で最も手軽に用いられるのが薬による膨張剤だが、この種の膨張剤は重曹を単体あるいは主剤としたもので、これら種々膨張剤の加熱による特性を知っておくことが肝心である。
重曹は、饅頭やどら焼きなど、かなり応用範囲の広い膨張剤である。正式な名称を炭酸水素ナトリウムといい、比較的高い温度で分解し二酸化炭素(炭酸ガス)を発生する性質を持ち、この炭酸ガスが生地を膨らませるのである。
ただし、この熱による重曹のガス化は、100%完全に分解(ガス化)されず、一部は炭酸ナトリウムという形に変わって生地の中に残る。この炭酸ナトリウムはアルカリ性を呈す物質なので、小麦粉の中に含まれるフラボノイド色素がこのアルカリの影響で黄色く発色する現象がみられる。
したがって白く仕上げたい蒸し饅頭生地に重曹を用いると、場合によっては黄ばむ現象もみられることもある。
このようなことから重曹が単独で用いられることはそれほど多くはなく、pH調整剤や膨張助剤などと組み合わせて、次に述べる複合膨張剤(イスパタ・べ-キングパウダーなど)の基材として利用される。
注意すべきことは、粉体で用いた重曹は生地への分散性が悪く、場合によっては気泡むらが出てしまうこともあるので、重曹だけを使用する際には必ず水で溶解してから使用すべきである。
どうしても重曹単体で使用しなければならない場合には、薬局で販売されている上質なものを使用すべきである。安価な重曹は粒子も不揃いで粗く、生地中に溶けずに残り黄ばみ・斑点が生じることがある。
微生物菌(酵母・イースト菌など)は、増殖に適した栄養分と温度のもとで盛んに分裂を繰り返えすが、この増殖時に炭酸ガスを放出する。生地中に生じた炭酸ガスを小麦粉に含まれているグルテンで封じ込め、ふんわりとした感触に仕上げたものが酒饅頭・パン・中華饅頭(酵母使用)である。
微生物菌での発酵させた酒饅頭や酵母パンと、ベーキングパウダーでのパンとではいったいどこが違うのか・・・、
小麦粉生地を膨らますのにも、べーキングパウダーを使って短時問で膨らませることも出来る。しかし風味・食感において味わい深いのは、糀(こうじ)や酵母(イースト)を使っでじっくりと膨らませた発酵パンのほうです。
小麦粉生地がふっくらと大きく膨らむのは、先に述べたように生地中に練り込まれた酵母(イースト)が、生地の中の糖類(ブドウ糖など)を分解し、大量の炭酸ガスを生産するためで、この多量に生成された炭酸ガスが小麦粉生地を大きく膨らませる元となる。
しかし、炭酸ガスが小麦粉生地を膨らませるという意味では、べーキングパウダーを使っても同じ筈だが、べーキングパウダーを用いて膨らませたパンと、酵母を用いて発酵させたパンとでは、いったいどこが違うのか・・・
まず、決定的に異なるのは、酵母の場合、発酵の際に出来る炭酸ガスだけではなくて、同時にエチルアルコールを始めとする「香り成分」や数多くの「呈味成分」、焼いた時に美しい焼き色のもとになる成分など、実にさまざまな物質が同時に生産され、これらが発酵パンあるいは酒饅頭独特の風味を作り上げているのです。
また、微生物菌での発酵させた酒饅頭や酵母パンは、生地の処理時間が比較的長いので、その問に生地の中でいろいろな酵素が作用しあい、風味だけではなく生地全体の伸展性などもかなり変化して、小麦粉生地全体がふっくらと大きく膨らむようになる。
酵母(イースト)を用いて小麦粉生地を膨らませると、単にべーキングパウダーを用いて膨らませたものには見られない独特の風味や生地の物性を得ることができるという訳です。
(参考:酒饅頭の酒種について)