HOME > 和菓子の教室 > 練り羊羹 練羊羹 生餡 漉し餡(こしあん)
最近残念に思うことですが、若い技術者が和菓子の基本ともいえる材料の基礎知識を習得しようとせず、技巧を追い求めているのを見ますと和菓子の将来を憂いてしまいます。ここでは真に和菓子の味を探求しようとする若き職人の一助となればとの思いで執筆しました。 煉り羊羹
煉り羊羹と蒸し羊羹
寒天を溶かし砂糖と餡を加えて練り上げたものが煉羊羹 餡に小麦粉や葛粉などの澱粉をいれて蒸し上げたものが蒸し羊羹である。 煉り羊羹の変遷 「練り羊羹」が日本の歴史に登場するのは慶長4年(1599年)で、鶴屋(後に駿河屋と改名)当主五代善右衛門がテングサ(寒天の原料)・粗糖・小豆あんを用いて炊き上げる煉羊羹を開発、その後も改良を重ね万治元年(1658年)には完成品として市販されている。しかし寒天を使用した練羊羹が一般に広く普及したのは江戸時代の中期からであって、それまでは依然として蒸し羊羹が主流を占めていた。 煉り羊羹の原料について 煉り羊羹は寒天・砂糖・餡で構成される単調な菓子であり、それだけに材料の特性が直接仕上がりに影響を及ぼすので、それぞれの原料の選択には慎重を期して欲しいものです。 <寒天> 煉り羊羹に用いる寒天は凝固特性・ゼリー強度・保水性などに優れている最良のものを選んで下さい。 総合的にはゼリー強度が高いものほど優れていますが、それでも原料(原藻)の配合比率や製造方法、産地によって性質が異なっておりますので、実際に使用してその結果から判断するしか方法はありません。 煉り羊羹に使用する寒天のゼリー強度は、550番手から600番手以上が望ましく500番手以下では煉り羊羹には不向きである。市販されているものは殆どが、ゼリー強度400番手から450番手のものであり、これらは製造的には扱いやすいが腰も弱く保水性にも劣るので、煉り羊羹には不向きである。良質な寒天は専門寒天業者を選ぶようにすべきである。 (意図的に柔らかい煉り羊羹を制作する場合にはこの限りではありません) また注意すべき事は、寒天のゼリー強度は、ある条件によっては著しく低下することがある。たとえば酸性を有する素材を加えたりする場合は粘度や凝固力を減少させてしまう。 梅羊羹のように酸味が強いものや、柑橘類を加えた羊蘂は、果実の酸(有機酸)は寒天質の粘度を弱める性質を含んでいるので、歯ごたえのない腰の弱い羊羹になってしまいがちである。 寒天は水に浸し吸水させて用いるのだが、充分に吸水していない寒天は溶けないばかりか煉り羊羹としての食味や日持ちの悪い製品となってしまう。 とくにゼリー強度の高い寒天ほど吸水には時間がかかり、溶解も容易ではないが、寒天特性を熟知した上で作業を進めることが良質な煉り羊羹を作るコツでもある。 <砂糖> 砂糖の煉り羊羹に占める割合は60〜70%にも及ぶので、どのような風味の煉り羊羹にしたいのかによって砂糖の種類を選べば良い。 次は、"羊養のカビについて"その原因と防止方法を述べる。参考にして今後はなるべく理論的に研究願いたい。 羊羹のカビ防止について 筒に流した羊奨は、常識的には保存性に耐えるものであるが、ただし、水分の多いものや糖分の少ないものは、カビが 生えたり、酵母が繁殖して発酵するが、これらは水分と糖分もちろん、製造の際の衛生的取り扱い、その後の保存、包 装にも充分注意することは当然であるが、配合、火加減などにも充分注意しなければならない。この微生物の繁殖に対す る和菓子類の安全指数には、次のような関係がある。 一〇〇を乗じた指数が五〇より少ないと、その和菓子は微生物の繁殖に対して安全度が高くなり、五〇より多いほど繁殖 が行なわれやすく、腐敗変質しやすくなる。 一般的に、羊羹の安全指数は水分二七%くらいであるが、市販されている各地の羊葵の中には、四〇%という粗悪品もあり、安全指数四十を超えると、カビ発生の恐れ充分である。 ただし、実際には糖分六五%以上にすることは、シャリの点でなかなかむずかしい。 糖化指数を算出するには、羊羹の砂糖含量を水分量で割り一〇〇を掛ける。 元来、煉り羊羹は糖分が多いので、微生物が繁殖しにくく問題は羊羹の表面に付着する水滴であろう。 この水滴は、糖分を溶かしている率が低いので、微生物の生活に好都合で、根本問題は煮詰めをよくし、冷却条件を完 全にして水滴をつくらないことである。 煉り羊羹の火加減について イ加熱の目的 羊羹を煉るときに加熱するのは、飴の組織の中に砂糖や寒天質を浸透させるとともに、飴の組織を軟化物質にするのが ねらいで、この目的が達せられたら、次に余分の水分を蒸発させて、凝固しやすい状態にもってゆく。 このようにして、初めて羊羹として特性が備わるわけである。砂糖は水に溶ける性質があり、冷水でももちろんである が、加熱すると、冷水のときよりさらに多量の砂糖を溶解でぎることは承知であろう。 この液状になった砂糖は、固体のときより飽に浸み込みやすく、この中に餌を入れて、逐次飴の中に浸透させるほうが 楽であり、また効果的である。 飴粒子は、熱水にあうと膨潤して可溶性の成分を溶かし出し、組織は多孔質のものとなり、粒子の奥深くまで熱水が、 さらに浸透しやすくなる。 この砂糖や寒天質は、熱水に溶けているので、いっしょに飴粒子の奥まではいり込んでくる。 そうして熱水は、飴粒子の隙間から水蒸気となって空気中に散り、砂糖や寒天質が残る。 このようになると、鍋の中の餓はかなり煮詰った状態になり、加熱の目的はだいたい達せられたことになる。 次に、加熱の方法を述べる。 口 加熱の方法 飴や羊羹を煉る場合、最も条件のよい加熱方法は、熱効率を考慮した加熱方法をすることで、物を加熱するときには、 急速に熱することが大切で、必要な総熱量を長時間かかって与えてもよいというのではない。 どのくらいの速さで加熱することがでぎるかを表わすことを熱効率という。 熱効率は、熱源によって左右されるのはもちろんだが、器具、設備による影響もきわめて大きい。 飴や羊羹の煮詰め加熱方法は、水分の多い初期は、μ伝導でんぱと対流〃による熱の伝播であるが、煮詰まってきて水分が少 なくなると大部分が伝導によるから、"熱伝導率μの大きい鍋を使用したほうが熱効率によく、昔から銅鍋(サワリ)が多 く使われてきたのも、ここから考えられたものである。 捜拝することは、熱伝播の対流を補助するのと、均質な鱈や羊蔓をつくるためで、煮詰め始めから水分が蒸発して少なくなり、対流の効果が薄くなったときしだいに麗絆を多くして、熱の伝播を助けるのが合理的である。 しかし、ここで考えなければならないことは、飴や羊葵を加熱するのは、煮詰めるだけの目的でなく、前述のように砂糖や寒天質を飴に浸透させるのが第一目的であるから、急激に煮沸したり、橿搾を多くしたりして、水分の蒸発を急ぐとこの目的が終わらないうちに煮詰まるために風味が悪く、つやのない天の効かないものになるおそれがある。 一度沸騰してぎたら、中火にして煮沸が持続する程度で煉り上げることが大切である。 次に、煉り上げるときの注意を述べる。 煉り上げるときの注意 飽粒子に新鮮な糖液を接触させるほどその吸収浸透は進むが、そうかといって麗搾が過ぎると腰抜けの原因になり、ブツブッ泡立って煮詰まってゆく状態を見ながら、ときどき杓子をいれる程度でよい。 ある程度煮詰まったら、杓子は底部に気をくばりながら、まわりの強く加熱されるところをときどきぬらしながら煉り続け、水分が少なくなり砂糖が過飽和状態になっているのでまわりを杓子で強くかき回すと、砂糖の粒子は結晶しやすくなるから、焦げないように刺激を与えないようにする。 水分が蒸発して飴粒子が縮むと粒子の膜が自然に破れ、中から糖分、寒天質が除くようになり、この液が冷えると、粒子は隣り同志でくっつき合って固まり、弾性のある固溶体ができるわけで、これを杓子で摩擦して餌粒子を破ろうとする と、なかなか粒子はつぶれないばかりか、過飽和の砂糖液に物理的の刺激を与え、結晶を促進してシャッた羊羹をつくる結果となるので、充分に温度と時間をかけて、砂糖の分子を多く集団させるように煉り、しかも結晶化するほど煮詰めないで煉り上げ、筒に流したらある程度急速に冷却し、分子の行動の自由を押えるように処理することが大切である。 以上、煉り羊蘂の火加減について述べたが、充分記憶にとめて操作することを切望する。 左に、生飴使用と、並餉使用の基本配量を表示したので参考にされたい。 次は、生餌と並餓の基本煉り上げ方法を述べる。 小豆煉り羊羹配量 @糸寒天57g A冷水2.3L B白双糖3.9Kg C小豆生飴2.25Kg D水飴200g(SE) 煉り上がり目方6.2Kg 羊羹舟二枚分 並餡使用の配量 @糸寒天57g A冷水2.0L B白双糖2.2Kg C小豆生飴3.1Kg D水飴200g 製法工程 この配合は、寒天と砂糖を基本より増量してある。 @一昼夜浸しておいた寒天をフルイにあげ、冷水をかけてからサワリに入れ、冷水を二・三認加えて火にかける。 A沸騰して寒天が完全に溶解したら、白双糖を入れ、さらに沸騰させて砂糖を溶解する。 ここでは白双糖を使用したが、グラニュー糖でもさしつかえない。また、精糖を二〇%くらいの比率で使用してもよく 要はあっさりした食べ口の羊羹をつくることで、その比率は自由である。 B砂糖が溶解したら、目の細かい毛ブルイでこし出し、再び火にかけて煮詰め、一〇五度Cまで煮詰めたら小豆生餌を加え、なるべく杓子の撹搾を少なめにする気持ちで徐々に煉ってゆく(焦がさないように注意する)。 C煉り上がり加減をみるには、杓子で羊羹をすくいとって十五〜二十聾くらいの高さから、直径十五弛.くらいの輪を描 いて、それが盛り上がって描き終えたころ自然に消えてゆく程度がよい。 また、杓子に上げた羊羹を口で強く吹いて、輪が三個くらい出る程度でみる方法や、熟練してくると、煮沸の泡の立ち 加減でわかるようになるが、初心者は前者の方法、あるいは総目方で加減をみたほうがよいであろう。 舟二枚分の目方は、基本配量で煉り上げたものが五・六〜五・七キ。程度になるように煉り上げるとよい。 この配量は、砂糖、寒天が増量曳、れているので、煉り上がり目方は六・一〜六・ニキ。程度になればよい。 D煉り上がり間際になったら、水飴を入れて火を止め、約三十秒くらい静かに撹絆してから火よりおろして羊羹舟に流 し入れるか、筒に流し込むか、それぞれの用途に応じて流すとよい。 次に、並煉り餌を使用した煉り羊蔓は、煉り加減は同様であるが、寒天、砂糖液の煮詰めは一〇一度Cくらいで並飴を 加えて煉り上げるとよい。 この方法は生飴のないときや急ぎの注文の場合とか、少量使用する場合などに応用するとよい。 次に、白煉り羊養の製法を述べる。 白煉り羊葵配量 @糸寒天45g A冷水1.8Kg Bグラニュ−糖3.6Kg C白生餡2.4Kg DSE(水飴代用)180g (煉りあがり目方7.5Kg羊羹舟二枚分) 白並餡使用の配量 @糸寒天45g A冷水1.5Kg Bグラニュ−糖1.8Kg C白煉り並飴3.0Kg DSE(水飴代用)180g A製法工程 @十二時間以上浸しておいた寒天をフルイにあげ、水洗いして煉り鍋に入れ、水を加えて火にかける。 A寒天が沸騰して充分に溶解したら、砂糖を入れてさらに沸騰させる。 目の細かい毛ブルイでこし、再び蜜を一〇五度Cに煮詰めたら白生餓を入れ、杓子で焦げつかないよう注意しながら徐徐に煉ってゆく。 B煉り加減は、小豆羊葵と同様の火加減でよく、煉り上がり間際にSEを混ぜ、火を止めてから三十秒くらい静かに擬絆して火からおろす。 着色の場合は、このとぎに用途に応じてそれぞれ着色するヤロ とよし C白羊養にSEを使用したが、これはソルビトールと水飴双方の性質を兼ね備えた流動体のもので、耐熱性も高く、高 温加熱にも禍変現象を起こさず、鮮明に着色でぎる特質をもつものである。 それらを考慮して、白羊葵の色焼け防止と乾きを止めるために使用したのである。 白並飴使用の羊葵も前述の工程と同様で、寒天糖蜜を一〇一度Cくらいに煮詰めてから白並飴を加えて煉り上げるとよい。 小豆羊蘂、白煉り羊養の基本製法は、すべての煉り羊羹の基礎となるので、一番多く使用されている。 したがって、この二種類の製法を完全に修得してから、ほかの羊蘂類を研究くふうすることが望ましい。 備考 生館から煉った羊嚢と、並餓から煉った羊羹の差異 並餌から煉ったものは、よく火がとおっているからおいしいと考えられる。 しかし、並餌はすでに一度煉ったものを再び煉り返すと同様であるから、どうしても豆の風味が淡くなり、多少味覚が悪くな る。 したがって、豆を時問をかけてよくむらし煮したものを、目の細かいフルイでこした鱈がよく、おいしい羊蘂をつくるには、生 鰹から煉り上げる方法をおすすめする。 あんばいのよい羊羹は、包丁した切り口につやがあり、その切り口が時間経過とともに薄く糖化してゆくようなものがよく、薄 めに包丁して透かしてみて分子の細かい羊蘂なら食べても口溶けがよい。 また、二弛・厚×十八態くらいに包丁して折り曲げたものが、折れないでスーッとしなうような弾力性のあるものがあんばいのよ い羊羹で、これを本煉り羊藁という。 最も理想的な製品は、 糖度六〇〜六五度 水分二四〜二二% 粒子八Oメッシュくらいが必要 右記の条件で煉り上げたものは、微生物の繁殖を防ぎ、羊養の絶対安全指数である。 |